夢をたずさえて
舞台は世界へ
2015年入社
機械知能システム工学科卒
吉野 友也
TOMOYA YOSHINO
感光材・システム技術開発部
なじみのなかった海外への扉を開く
「正直いうと、あまり研究をした記憶がないくらい、学生時代はなんとなく勉強していました」。在学中は機械をベースに、設計、力学、プログラミングなど幅広く学ぶ機械知能システム工学を専攻していたが、決して本腰を入れていたわけではない、と吉野は学生時代の自分を振り返る。
そんな吉野の意識が変わったのは、配属になった富士での強烈な経験だ。配属先が故郷・熊本から離れた富士市だったこともあり、入社してからしばらくはショックを引きずっていた。だが、そんな吉野が目を覚ましたのは、世界を相手に働く先輩や上司たちの働く姿勢だった。
所属する装置グループは、印刷に欠かせない製版装置のメンテナンス指導からトラブルシューティング、既存製品の改良まで担当。しかも顧客である印刷会社、製版会社は、国内だけでなく、海外にも幅広く広がっている。トラブルを回避するためのマニュアルやメンテナンス方法は、日本語だけでなく、英語でも作成が必要な部署への配属だった。
「化学的な反応や物理的な仕組み、それを制御する電気電子の知識など、装置の構造を知らないとお客様への説明ができないですし、その上、取引先が日本をはじめ、アメリカ、インド、インドネシア、欧州など全世界の顧客相手。隣の上司が英語で話しながら説明していたりと、とにかくこのままの意識では、まずいと痛感しました」。
専門的な知識に加え、さらに学生時代には興味の無かった英語を話すというグローバルな対応。そこで吉野はへこたれることなく、自分ができることからひとつひとつ仕事を覚えていった。
「富士工場では納品先と同じ製版装置を設置しているので、実際に触ることができます。入社1〜2年目は、装置の構造、仕組みを覚えるためにとにかく実験を繰り返しました」。構造を覚えるまで、製版装置を自らの手で分解したり実験を重ね、同時並行で語学も学ぶ。もちろん、現場でのトラブル対応と併せての業務だ。
1年目は北海道から沖縄まで、国内の顧客を担当し、現場での経験と実績を積み上げてきた。さらに2年目からは、海外担当へ。数多くのトラブルシューティングの経験を経て、原因の予想ができるまでになった吉野に、大きな仕事がベルギーから舞い込んできた。それは3年目のことだった。
たった1人で欧州へ飛び、解決を探る
フィルムやラベルなどを印刷するフレキソ印刷(凸版印刷方式)では、レーザーで画像を貼り、そこに紫外線ランプで光を当てて固め、洗浄する工程がある。それが版(印刷するための反転したもの)になるが吉野は版を洗浄するための装置を担当していた。これまでは専用の溶剤で洗浄していたが、コスト削減や乾燥の時間短縮、環境への配慮から、今では水で洗浄する方式が主流だ。しかし、水で洗浄するとデブリ(樹脂カス)が液中に分散してしまう。その処理としてデブリを回収できるフィルターろ過システムを洗浄機に搭載しているはずが、デブリが写り込んでしまうほど残っていて製版できないという問い合わせがベルギーから入った。その問い合わせは、当時の最新装置を導入している相手先からのみ発生していた。市場に出回ってまだ日が浅い装置だったため、国内では未設置の状態。日本にいても装置に触れることができず、原因が解明が難しい。そのうえ装置が停止している状況では製版ができず、印刷することもできない。すぐさま現地での原因調査と対応が求められ、まだ22歳の吉野は、プレッシャーと闘いながら、1人ベルギーへと降り立った。「通訳もいませんし、私一人で原因を追求しなければならない。眠れないほどのプレッシャーでした」。
ここで吉野は、入社1年目の頃から経験してきた製版装置の検証、実験が功を奏す。ろ過に問題があることを類推し、現地で実験。すると、フィルターろ過システムでのデブリ回収率が30%に低下していることが判明した。「ろ過した際にかかるフィルター内部の圧力がかかっていない状態でした。これは密封できておらず、どこかに隙間があるのが原因ではないかと疑いました」。
予想をつけた吉野は、データを拾っていく。結果は、予測と的中。隙間を埋めるべきOリングが装置にマッチしておらず、若干の隙間が発生したことで液が漏れてしまいデブリを完全にろ過できていなかったことがわかった。原因を解明した吉野は、すぐさま解決策を投じる。「よりシーリング力の強いプロファイルガスケットへ変更することを提案。比較的早期にトラブル解決することができました」。
無事に切り抜けた吉野は帰国後、1カ月ほど経って日本に設置された同様の製版装置で、再現性があるか確認。やはり吉野の対応は正しかった。「時間等の戦いもありプレッシャーのかかる仕事でしたが、それまでに経験や実験を積むことで、製版装置の特性を熟知していた自負もありました」。若手ながら大役を任され、言語の壁を乗り越えて難しい案件をひとりで乗り切った。
リーチがかかるふたつの夢
現在、吉野が担当し、海外に導入している装置は約120台。毎日何件も、世界各地から装置のメンテナンスやトラブル時の問い合わせのメールが届く。マニュアル作成も含め、吉野はすべて英語で対応する日々。「海外は修学旅行で1週間ほど行っただけですし、英語なんて全く触れてこなかった。いまでは、自分でも驚くほど暇さえあれば勉強しています」。会社の語学サポート制度も使い、週に2回の英会話は欠かさない。また、海外出張の際、時間が許す限り現地の人と交流を深め、SNSでのやり取りも行うことで今では英語に触れ合わない方が珍しい日々を過ごしている。
「海外へ行くと“ウェルカム”な姿勢で迎えてくれ、装置を復旧させると『ありがとう!』と喜んでくれる。楽観的な考え方に魅力を感じています」。いま、吉野が掴みかけている夢。それが、海外赴任。「上司には2年目のときから相談してきた。今まで、一生懸命頑張って実績を出してきたので、それが認められたら叶うと信じています」。
文字どおり世界へとフィールドを広げようとしている吉野には、もう一つ夢がある。それが、次世代製版洗浄装置の開発だ。実際、吉野自身がコンセプトから図面落としまで行い、開発に注力している。「すでに従来技術とは違うまったく新しい現像方法のアイデアは浮かんでいます。それを具体的な形にしていくことが自分の目標。課題すべき点も多いと思いますが、より良い製品づくりのためにチャレンジしていきたいですね」。すでに2019年4月からは、フランスの装置製作会社に数カ月間、長期訪問しており、開発は進行中。本格的な海外赴任に向けた第一歩を、吉野はすでに歩きだしている。
オンもオフも全力疾走
学生時代にはまったく興味のなかった英語も現在は、自分の仕事と夢へとつながる重要なもの。費用の75%を旭化成が負担する自己研鑽支援制度を利用し、週に2回程度英会話スクールに通い、TOEICで730点を超えることを目標に研鑽を続けている。また、週に2回はスポーツジムで後輩と一緒に運動・筋トレしてリフレッシュしたり、月に2回は釣りにいくなどアクティブな日々を過ごし、オンもオフも欲張りな日々を過ごしている。