広大に広がる
可能性の扉を開いて
2009年入社
制御情報工学科卒
勝亦 俊貴
TOSHIKI KATSUMATA
設備技術センター 富士設備技術部
新しい学びが喜びへと変わる
「学んだことをいろいろな人に役立てたい」という想いから、進学して制御工学を深く追求する道ではなく、情報系の会社への就職でもなく、化学のイメージが強かった旭化成への入社を決めた勝亦。そこには、自分の力をどれだけ発揮できるのか挑戦したいという気持ちと自分が培ってきた技術や研究を世の中で活かしていきたいという想いが根底にあった。
入社後、ろ過膜であるマイクローザ製造工場へ配属。マイクローザはろ過膜のために旭化成が開発した中空糸膜。特殊な繊維を中空糸状の膜にしたもので、化学、精密機器のろ過から、上下水道、食品、人工腎臓の血液のろ過まで、用途は幅広い。
入社後勝亦はマイクローザの量産工場の計画保全と設備提案を主に担当することになり、2年間は電気、その後の3年は計装分野の保全、設備提案業務に従事した。「学校では電気に関しての基本的なことは学んでいましたが、その知識だけでは仕事はできない。日々、わからないことに直面しては、上司や先輩に質問したり、文献を読んだりしながら、知識を増やしていきました。電気に対して、ある程度の知見を得たところで、待っていたのは計装に必要な機器の知識。計装に必要な機器は幅広く、覚えることも多く大変でしたね」。
また、マイクローザを製造する過程で、原料の要因により機械に詰まりが起きた場合のトラブル対応なども求められることから、化学的な知識も必要となる。それに対しても勝亦は、積極的に講習を受けたりしながら学習に励んだ。
そうして設備技術としての業務を5年で体得し、その後、感光性材料の工場へ異動。ここでは、電気も計装も一人が担当する。「マイクローザ工場と業務内容は似通っている部分もありますが、製造するものが違うので原料も機械も異なります。新たに知識を覚える必要がありました」。機器の整備や交換修理などの工事は、施工会社に依頼することが多いが、まずは保全担当が現場の設備状況、正常な状態を把握していなければ、整備や修理の依頼もできない。計画的な予知保全をするにしても、トラブルが起きた際の事後保全にしても、現場とコミュニケーションをしっかり取って状況を把握し、原料の特徴や機器の操作方法、現象など、あらゆる視点から原因を探ることが求められる。時には、勝亦が得意とするプログラミングが主役になることも。
「学生時代、PID制御は研究していました。現場での補正を求められましたが、プログラムの読み解き方はわかっているので、抵抗なく作業でき、トラブルの原因を判断できました」。さまざまな切り口からトラブルに向き合い、原因を突き止める。そのようにして実際の現場で経験を積んできた勝亦に、思わぬ大役がまわってくる。
日本が誇るレベル水準を海外でも
グローバルな展開をしている旭化成。工場は国内のみならず、海外でも展開している。その一つが、中国・常熟市。勝亦が現在、担当する感光材の製造工場が、数年前、常熟に新設されたのだが、設備故障により3週間ほど止まってしまうトラブルが起きていた。
「早急に計画保全のレベルをあげるように」このミッションを背負い、勝亦は2017年10月から常熟へと通うことになった。「まさか自分が海外担当になるなんて思いもしなかった。教育指導のスキルを身につけるチャンスととらえ、現地の担当者に教育するための計画を立て、それに基づいて現地へ赴いています」。工場の保全は、日本と同じ計画に基づいているが、設備やスケールの違いや、何よりも文化や風土も違う現場採用の社員との意識の擦り合わせに苦慮した。そこで勝亦は、現地の担当者に、工事の際はどこに着眼するべきかなど重要なチェックポイントを指導し、習得してもらうことに集中した。まさにその教育の最中、工場停止というトラブルが発生する。製造過程で、フィルム が自動的に切り替わる設備がうまく機能せず止まってしまったのだ。現場にいあわせた勝亦は、現地担当者と一緒に原因の調査に乗り出す。「どんな操作をしたのか、機械がどんな動きをしたのかと作業担当に尋ねても、断片的な情報しか掴めず、しかも通訳を介しているため余計に理解が難しかった。なかなか原因が絞り切れず、対応には時間がかかる可能性があると感じました」。
勝亦は、日本での原因追求と同じように、さまざまな糸口を探した。何度も再現テストをしていく中で、原因と思しき部分を発見する。「プログラムをモニタリングしながら、現地の作業担当者に同じように操作してもらい、おかしい箇所のプログラムを修正しました」。結果、無事に復旧でき、工場停止は3時間程度にとどめることができた。目の前で起きたトラブルに対して、同じことが二度と起きないよう、勝亦は保全に必要な視点を海外の地で一つひとつ教えている。「我々が現地へ赴く数年前にも、長く工場停止したことがあるのですが、このときも計画保全の欠如が原因でした。保全レベルを日本と同レベルに上げていくことが、我々のめざしている方向性です」。
IoT活用の夢を叶えるために
そういった海外や国内での経験をもとに、勝亦はある技術に活路を見出す。「IoT(Internet of Things)が整っていれば、すぐに復旧できるのでは…」。中国・常熟での工場停止時のトラブル対応の経験なども踏まえ、クラウドを通じた遠隔での管理、操作ができれば、格段に保守レベルを上げられるのではないか−。現在はネットワーク回線の環境や機材保護など、クリアすべき課題があることも事実ではあるが、この仕組みが実現できると、今回、勝亦が現地の工場で行ったプログラミングの補正も、日本にいながらにして、行うことができる。設備の不具合の確認や品質改善のためにデータを確認することもできる可能性を秘めている。実現化に時間を要することは、勝亦も承知だ。「現地の工場を実際に見て現状を把握していることと、そもそも情報工学の勉強をしていたこともあり、この分野を実行するのは私しかいない、という自信と責任を感じながら検討しています」。現場で培った経験と自分自身の学んできたことを融合し、より安全で安定的に製品を供給する仕組みを考え、実現させていくことが勝亦の夢だ。最先端技術を夢物語で終わらせないよう、一歩先の未来として広大な可能性を描いている。
地元・富士市に構えた念願の新居
1年ほど前、手当金が支給される住宅補助制度を使い、ヘーベルハウスで、両親の家の隣の敷地に新居を構えた。週末は子供とゲームをして遊びながら、マイホームでの暮らしを堪能している。