一つひとつの知識と学びが、
確かな実を結ぶ
2013年入社
機械・電子システム工業専攻
川野 廣和
HIROKAZU KAWANO
設備管理部 大分保全第二担当
少しの差が、人の命を左右する
“人の役に立ちたい”。その気持ちが根底にあった川野は、高専4年目の研究テーマに、医療系を選択した。脳波のヘモグロビン量を測定し、人が動いたときに脳のどこが活性化しているかをデータ解析するという研究だ。
「リハビリが必要な方や脳に損傷のある方へのリハビリに応用するための研究でした。医療に携わりたいという想いが、僕の中のどこかしらにあったんです」
医療系の分野も視野に入れ、これからの時代に欠かせない技術を身につけようと、専攻科へ進学。在学中は、機械、情報、電子とまんべんなく学んだ。それが基盤となり、就職先の候補には医療系だけでなく幅広く展開している企業に惹かれるようになる。
「いろんな企業の説明会に行って話を聞きました。その中で、旭化成はメディカルもあるし、化学系も電子系も建材もある。医療だけではない、いろんな分野があることに魅力を感じました」
入社後、希望のメディカル分野に配属となり、現在5年目。血液から有害物質を除去して浄化する“アフェレシス”治療のための、医療機器を製造する設備の点検・改善が、主な業務だ。
「1年目はとにかく、製品がどのような設備でどのように作られているのか基本から学びました。なぜなら、原理・原則などを理解せず表面的な知識で仕事に臨むと製品の品質にも悪影響を与える可能性があるし、怪我につながると思うから。まずは、原料から製品になるまでの流れをいろいろな視点から細かいところまで把握していきました。」
そうして基本を身につけた川野は、徐々に規模の大きな設備を担当するようになる。「設備点検の際、設備状態の変化を見逃すと、製品の品質に意図しない影響を与えてしまうかもしれない。私の仕事の結果が患者様の体に大きな影響を与える可能性は充分に考えられます」。
自分のこの一つの行動が、人の命にかかわる。その責任感が、川野の原動力となっている。
頭を悩ませる、計測のばらつきに向き合う
1年目から担当していた設備点検は、現在も引き続き担っている。たとえば、設備の温度を制御する温度センサーの点検。きちんと稼働していないと正しい数値が測れないため、日常点検が必要だ。機械が停止してしまうと製品の品質や供給に影響が及ぶ設備の場合は、川野の行う日々の点検が鍵を握っている。また、医療のQMS(品質マネジメントシステム)が定める点検も重要な業務。点検の基準が守られなかった場合、できあがる製品が“不適合”となってしまう。
「装置を開発するときは、その安全性はもちろん、オペレーターの利便性もはかっています。自分の発想も必要ですが、現場の声を拾うために現場の方々とのコミュニケーションが大事。自分の作った装置が現場の方の手により動いているのは嬉しいですし、これからもいい設備を入れていこうという自負を覚えます」
川野が自ら新たな装置を開発したのは、入社1年目の終わり頃のこと。製品を包装する包装機が老朽化し新しく更新することになったため、これを担当することになったのだ。
担当する装置は、製品の滅菌を左右する包装材を熱で溶かして製品を密閉させるものだが、この熱が包装袋の密着度に大きく影響を与える。密着が不確実だと製品が外気に触れて汚染されてしまう可能性があるため、適切な温度の熱プレートで均一に圧をかけながら過熱し確実に密封しなければならない。最も重要なのは過熱する温度をいかに安定させるか。だが、一般的な温度センサーでは熱プレートの圧力に耐えられず、この温度を正しく測定できない。そこで川野はこの条件で温度を測定する機構を考案し、その検証がはじまった。
「まずは机上で計算して、次に実際に別の標準温度計と比較測定を行った。このデータを統計的手法に基づいて解析して、温度のばらつき(不確かさ)が包装袋の密着度にどの程度の影響を与えるかを提示しました」
たとえば、装置の設定値が132℃だとしても実際の温度はその前後で必ずばらつく。設定値が132℃であっても、実際は131.5℃の時があるかもしれない。その0.5℃の違いが密着度にどれだけ影響するのか。それは許容できうるものなのか―。これを定量的・科学的に検証し評価することが、この装置には欠かせないのだ。
「対電圧のばらつき、温度のばらつきなど、すべてを総合したばらつきの値を正しく評価するのはかなり大変な作業です。そこから、出たばらつきが品質にどう影響するか。この辺りは僕の業務の中では一番難しいし、やりがいがある。今も勉強中です」
川野が試行錯誤しながら完成させた温度測定のしくみは3ヵ月で日の目を見た。更新した包装機は、現在も現場で実際に動き、重要な役目を果たしている。
現場でアウトプットする知識と技術
「電気が通っているものは何でも、自分の担当」と川野が言うように、約200人が働く工場の設備はもちろん、照明、警報、放送設備等もすべて川野の管轄。「僕自身、電気がベースではないので最初は苦労しました。とはいえ、照明一つとっても、使い方を誤ったり管理を怠ったりすると発火してしまうこともある。細かいことから確実にしていくためには、ただ既存のものをなぞるのではなく、一つひとつ知識を身につけてから現場で活かしていくことが大切だと思います。すべては原理が大事だから」
学生時代に学んだ知識は、今の業務にかなりマッチングしている。その知識を基に、さらに深め、技術へと昇華させてきた。その知識と技術を、今後現場でどうカタチにしていくのか。そして、現場を牽引していくこと。その段階に、川野は足を踏み入れている。
幅広い知識を学んでいた高専時代。専攻科ではなく、大学進学への道も頭をかすめた。入社当初も、その想いは川野の中にほんの少しだけ残っていた。でも、今は違う。学生時代の知識が存分に活かされ、さらに拡張して現場の役に立っているからだ。
「今は充実しています。だから、これまで歩んできた道は悪くなかったと思っています」
好きなスポーツが繋ぐ、大切な関係性
大分工場のサッカー部に所属しており、毎週ノー残業デーは仕事後に汗を流している。元々は野球部にも所属していたが、今年廃部になってしまい現在はサッカー一筋。元来、生粋のスポーツ好きであり単に楽しむ為に2つの運動部に所属してきたが、そこで生まれた人間関係がネットワークになり、仕事の思わぬ場面で助けになることもしばしば。また、現在のサッカー部員はメディカル以外の隣接工場の人も多い。サッカー部でのコミュニケーションをきっかけに、他の事業分野の業務を知ることや多様な価値観に触れることにつながり、それは公私ともに良い刺激になっている。