化学メーカーである当社の研究開発部門では、AIによって材料開発の効率化を目指すMI(マテリアルズ・インフォマティクス)に力を入れています。開発の加速につながるなど、良いことばかりのようにも思えますが、そう簡単な話ではありません。現状、材料開発については旭化成など日本の化学メーカーに大きなアドバンテージがありますが、MIが一般化することで、海外の新興企業が驚異的なスピードで追随してくる可能性があります。さらに、現在私たちが材料を提供している企業もMIに注力し始めています。各社でMIによる材料開発が進めば、旭化成が単なる受託製造会社になるリスクもあるため、まずは私たち自身が率先してMIに取り組む必要があると考えています。また、MIを活用することで、研究者はより難しい課題に取組むことができるため、研究者の能力は大きく向上するとも考えています。リスクヘッジとMIを活用した競争力の強化。旭化成および私たちの部門がデジタルIT戦略に力を入れている理由は、この2点が大きいですね。
IoTの部門では主に2つの課題を解決するために工場・生産現場の高度化に取り組んでいます。一つは将来予測される労働力不足への対応です。30年後には国内の労働人口が3分の2に減少すると言われていますし、海外の工場では現在でも熟練工が不足しています。少ない人数、一定の技量を持ったオペレーターで工場を稼働させるためには、IoTを活用した生産現場の高度化が不可欠となります。もう一つの課題は製品品質の維持と向上です。我々は労働力不足の対応や製品品質の向上のため、外観検査工程の自動化、AI活用による物性予測、設備の異常兆候診断やIoTツール活用による現場作業の効率化など、さまざまな形でIoTを活用した現場の高度化を進めています。
IT部門は従来からある情報システム部門ではありますが、社内における役割は大きく変化しています。少し前までの旭化成におけるITの役割は業務の効率化、コスト削減などがメインでしたが、最近ではビッグデータやAIの活用といったデジタル化によってITの適用範囲が大きく広がっています。デジタル化は研究開発や製造といった領域だけでなく、物流、マーケティングといった業務領域にも及び、今後もさらなる広がりを見せていくでしょう。また、旭化成は繊維、材料、LSIのほか、サランラップやヘーベルハウスのような最終製品も扱っており、事業領域の幅広さに特徴がある会社です。それぞれの事業領域が必要とするIT環境を適切に提供していくためにも、IT部門がデジタル化を牽引できる力を付けていく必要があると考えています。