IT、IoT、MIの責任者が語る旭化成のデジタルイノベーション

現在、旭化成ではAIやIoT、さらにはMI(マテリアルズ・インフォマティクス)といった領域で力を発揮できるデジタル系IT人財の採用を強化しています。そこでこのたび、旭化成のデジタル戦略を推進するうえで密接に関わるIT、IoT、MIそれぞれの部門を統括する責任者が集まり、各部門のミッションや現在進行中の施策などを踏まえた上で、「総合化学メーカーである旭化成がデジタル系IT人財に何を期待しているのか」「旭化成のデジタルイノベーションはどこまで進んでいるのか」さらには「各部門がデジタル化の先に目指している姿」といったテーマを中心に語り合った様子をお伝えします。

01

AI、IoT、MIといったデジタルIT戦略を重視する理由

T.K

化学メーカーである当社の研究開発部門では、AIによって材料開発の効率化を目指すMI(マテリアルズ・インフォマティクス)に力を入れています。開発の加速につながるなど、良いことばかりのようにも思えますが、そう簡単な話ではありません。現状、材料開発については旭化成など日本の化学メーカーに大きなアドバンテージがありますが、MIが一般化することで、海外の新興企業が驚異的なスピードで追随してくる可能性があります。さらに、現在私たちが材料を提供している企業もMIに注力し始めています。各社でMIによる材料開発が進めば、旭化成が単なる受託製造会社になるリスクもあるため、まずは私たち自身が率先してMIに取り組む必要があると考えています。また、MIを活用することで、研究者はより難しい課題に取組むことができるため、研究者の能力は大きく向上するとも考えています。リスクヘッジとMIを活用した競争力の強化。旭化成および私たちの部門がデジタルIT戦略に力を入れている理由は、この2点が大きいですね。

N.H

IoTの部門では主に2つの課題を解決するために工場・生産現場の高度化に取り組んでいます。一つは将来予測される労働力不足への対応です。30年後には国内の労働人口が3分の2に減少すると言われていますし、海外の工場では現在でも熟練工が不足しています。少ない人数、一定の技量を持ったオペレーターで工場を稼働させるためには、IoTを活用した生産現場の高度化が不可欠となります。もう一つの課題は製品品質の維持と向上です。我々は労働力不足の対応や製品品質の向上のため、外観検査工程の自動化、AI活用による物性予測、設備の異常兆候診断やIoTツール活用による現場作業の効率化など、さまざまな形でIoTを活用した現場の高度化を進めています。

S.F

IT部門は従来からある情報システム部門ではありますが、社内における役割は大きく変化しています。少し前までの旭化成におけるITの役割は業務の効率化、コスト削減などがメインでしたが、最近ではビッグデータやAIの活用といったデジタル化によってITの適用範囲が大きく広がっています。デジタル化は研究開発や製造といった領域だけでなく、物流、マーケティングといった業務領域にも及び、今後もさらなる広がりを見せていくでしょう。また、旭化成は繊維、材料、LSIのほか、サランラップやヘーベルハウスのような最終製品も扱っており、事業領域の幅広さに特徴がある会社です。それぞれの事業領域が必要とするIT環境を適切に提供していくためにも、IT部門がデジタル化を牽引できる力を付けていく必要があると考えています。

02

各部門における戦略やミッション、具体的な取り組みについて

S.F

従来から存在する業務系システムやインフラ・ネットワークの拡充・変革といったミッションに加え、昨今ではセキュリティが重要なテーマの一つとなっています。IoT部門はもちろん、旭化成のあらゆる部門、あらゆる現場でクラウドの活用が進んでいるため、クラウドを安心して活用できるようなセキュリティ技術の研究、ノウハウの蓄積を進めています。旭化成のあらゆる社員が、新しく便利なテクノロジーを安心して使える基盤・仕組みを提供し続けていくことが、私たちの部門の最大のミッションであると考えています。

N.H

IoT部門が掲げているミッションは3つあります。1つ目はIoTを活用した既存事業の高度化であり、自社の既存工場や生産現場、さらにはサプライチェーンの変革などがこれに該当します。2つ目はスマートファクトリーと呼ばれるものであり、新しい工場やプラントを作る際に自動化、デジタル化、ロボット化などを行うことで、新しい生産現場を提供していくことを目指しています。3つ目は人財の強化です。現在所属しているメンバーの技術レベルの向上に加え、新たな人財の採用を通じて部門全体のレベルを上げていきたいと考えています。

T.K

私たちの部門では「いかに少ないデータで、AIの能力を上げていくか」という課題に取り組んでいます。AI活用とビッグデータの解析はセットで語られることが多いのですが、材料の研究開発では1つのデータを取るだけでも数カ月〜1年という時間がかかってしまうため、蓄積しているデータの量は、実はまだまだ「ビッグ」ではありません。その少ないデータでAIの能力を上げるためにも、社内外のデータや特許、文献情報などを組み合わせて予測していく技術が必要になっているのです。

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各部門で求められるエンジニア像とは

S.F

IT部門では特定の分野に偏らず、幅広いテクノロジーに興味を持ち、身につけていける意欲のある方を歓迎しています。また、研究開発や製造、その他の事業部門など、さまざま部署の社員や外部ベンダーの方と協業することが多いので、コミュニケーション能力が高い方が向いています。現場の課題と向き合い続けなければならないので、泥臭い仕事も多いのですが、そうした仕事を面倒といとわず、「逆に面白い」と思ってもらえるような人に来ていただきたいですね。

N.H

自ら手を動かし、粘り強く仕事に取り組んで成果を出した経験のある方に期待したいですね。この仕事はプロトタイプばかり作っていても評論家で終わってしまうので、最後のモノにするところ、成果を出せる人が必要なのです。以前は同業界経験者を歓迎していたのですが、実際に入社いただいている方は総合電機メーカーやプラント建設系の方が多く、他業界から来た方が私たちの考え方を変えていくという良い化学反応も生まれつつあるので、出身業界はそこまで重視しません。また、データ分析で力を発揮いただける方に加え、現場からデータを収集する仕組みを作る人財も不足しています。ケミカルプラントでは「計装」というのですが、そうした分野の経験を持っている方も歓迎します。

T.K

MI部門では3種類のタイプの人財が必要だと考えています。一番必要なタイプは材料と化学の知識があり、かつデータサイエンスを理解している人。次いで、材料を知らなくてもいいので、データサイエンスに強みを持っている人、つまりデータサイエンスのスペシャリストですね。3つ目のタイプはビジネスの感度が高いデータサイエンティストです。MIはAIを使った材料開発ですが、マーケットに乗らない材料を開発しても意味がありません。たとえば自動車は所有するものからシェアするものへと変化しつつあるので、今後の自動車開発にはこれまでのようなラグジュアリーな素材や塗料が必要でなくなる可能性もあるのです。そうした先の読めないマーケットの流れを読んで、いくつかのシナリオに対応できる迅速な素材開発を可能にするMIを設計できる人財が必要だと考えています。

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各部門の将来のビジョン、目指すべき姿について

T.K

MIやIT、IoTをリードする私たちの部門だけが変わっても旭化成は変わりません。旭化成で働く全社員が日常的にAIを使いこなし、情報を扱うセンスを身につけていくことではじめて他社との差別化が図れると考えています。そのためには、まず3つの部門の仲間を増やしていく必要がありますね。

N.H

私たちはIoTで工場・生産現場の高度化を進めるべく、新しい設備を作っていきますが、それらを扱うのは「人」です。スマホのアプリではありませんが、実際に工場や設備を動かしていく人たちが意欲を持って「使いたい、動かしたい」と思っていただけるような道具立てが必要でしょう。我々は工場や生産現場、設備の革新化を進めることに加え、生産技術部門および製造部門の社員の働き方、仕事のやり方自体を変えることで、旭化成そのものを大きく変えていきたいと思っています。

S.F

私たちがITそのものをビジネスにすることはほぼありません。私たちの役目は旭化成という化学メーカーをITの力で支えることです。二人が統括するMIやIoTの部門、さらにはその先にいる事業部門と一緒になって、彼らがデジタルイノベーションを起こす上で必要なバックボーンをしっかり提供できるような組織でなければならないと考えています。また、冒頭に申し上げたようにIT部門に求められる役割も大きく変わってきているので、従来の仕事をしっかりと遂行しつつ、新たな視点や発想を持ってデジタル領域の仕事にもチャレンジしていきたいですね。

05

旭化成に興味を持つデジタル系IT人財へのメッセージ

S.F

IT部門のやるべき仕事が増えた分、活躍できるフィールドも間違いなく広がっています。安全で堅牢であることが求められた従来の業務システムは手堅く時間をかけて開発していましたが、デジタル領域に関しては「さっさと作ってダメなら別のことをやろう」というプロセスを繰り返していくタイプの仕事であり、これまでの仕事とは異なる発想が必要です。新しいチャレンジには失敗がつきものですが、それでも「とことんやってみよう」と思える方にとっては間違いなく面白い環境だと思います。

N.H

キャリア入社した多くの方は、「旭化成は組織の風通しがいい」と言います。仕事をしていくと必ず壁にぶつかるものですが、旭化成にはメンバーとともに考え、一緒に壁を乗り越えてくれる上司や仲間が大勢います。前向きな失敗は許容する文化なので、チャレンジやトライはしやすいはずです。

T.K

AIやデジタル系のバックグラウンドをお持ちの方は、IT企業やWebサービス系の企業を選ばれる方が多いのではないでしょうか。確かにそれらの企業ではビッグデータが手に入りやすく、すぐ活躍できる環境もあるでしょう。それに比べ旭化成のような化学・素材系の会社は、まだまだデータが少ない状況です。ただ、データが少ないが故に、ほとんどの会社が未だにデータを有効活用できておらず、チャレンジングな課題がまだまだ残されています。何より、これから会社や業界を変えていくことができますし、変えたときのインパクトも大きなものになるはずです。また日本は、様々な分野で米国や中国の企業に差をつけられ始めていますが、化学・素材といった分野では、まだ国際的な競争力を保持しています。旭化成のような化学・素材業界でデータサイエンスの能力を活かすことで、日本の競争力をさらに強くしリードを広げていくことに貢献できます。一人でも多くの方に、そんなやりがいのあるフィールドで活躍してほしいと考えています。

note

※本取材は2019年5月に実施されたものであり、​表記されている部署名・責任者等は当時のものとなります。